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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)131号 判決 1968年3月14日

原告 新東亜交易株式会社

被告 東京都荒川税務事務所長

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し、昭和四二年四月一〇日付各納税通知書をもつてした昭和三八年度から昭和四一年度までの各固定資産税賦課処分をいづれも取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び被告の本案前の主張に対する反論として次のとおり述べた。

一、原告は、各種商品の輸出入及び国内販売等を目的とする会社であるが、昭和三七年一二月三日及び昭和三九年三月二四日の二回にわたり、機械部品加工業を営む訴外木村製作所こと木村康好に対して三菱エリコン旋盤DE―B型各一台(倣装置及び附属品を含む。以下「本件物件」という。)を、いずれもその代金完済まで所有権を原告に留保する特約で割賦販売し、木村がこれを事業の用に供していたところ(ただし、右各売買契約は割賦金の不払いにより昭和四一年一二月二九日解除され、同物件は原告に返還された)、被告は、昭和四二年四月一〇日付各納税通知書(番号二〇〇六四、二〇〇五二、二〇〇三六、二〇〇〇九)をもつて、原告に対し、右物件に係る昭和三八年度から昭和四一年度までの各固定資産税の賦課処分をした。右賦課処分は、被告が原告を本件物件の所有者と認定して、職権をもつて償却資産課税台帳に登録したうえ、これにもとづいてなしたものであつたので、原告は、昭和四二年四月二八日右登録につき東京都固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をしたが、同年六月五日「右登録とこれにもとずく本件賦課処分に誤りはない。」との理由で右審査申出を棄却する決定があつた。

二、しかし、本件固定資産税賦課処分は、次の理由により違法である。すなわち、地方税法第三四三条第一項は、固定資産税は固定資産の所有者に課するものとし、同条第三項は、償却資産の所有者とは償却資産課税台帳に所有者として登録されている者をいうと定めているが、右の課税台帳に登録されるべき所有者とは、単なる民法上の所有権を有する者ではなく、所有の実質に着目して、現実に当該資産を占有支配し、収益を得ている者を指すと解すべきである(同法第一四条の一八、第三四三条第一項、第四項、第五項及び第八項参照)。ところで、原告が本件物件の所有権を自己に留保したのは、一に代金債権を確保するための手段にすぎず、現実には、買主たる木村が停止条件付所有権にもとづき自己の事業用資産としてこれを占有支配し、収益を得ていたのであるから、償却資産課税台帳に所有者として登録され、かつ同物件に係る固定資産税の納税義務を負うべき者はまさに右木村であり、原告が課税を受けるべきいわれはない。したがつて、被告が原告を本件物件の所有者として課税台帳に登録したうえ、原告に対し本件賦課処分をしたことは違法であるから、右賦課処分の取消しを求める。

三、被告の本案前の主張のうち、原告が本件賦課処分について東京都知事に対し審査請求をしていないことは認める。しかしながら、原告は、右賦課処分の前提要件をなす償却資産課税台帳への登録につき、前記のとおり東京都固定資産評価審査委員会に審査の申出をし、同委員会より、右登録にもとづく本件賦課処分が正当である旨の決定を受けているのであるから、同処分についても審査裁決を経たものというべきであり、それ以上重ねて都知事に対する審査請求を必要とすると解すべき法的根拠も合理的理由もない。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。

地方税法第一九条の一二の規定によれば、本件固定資産税賦課処分の取消しを求める訴えは、その処分について東京都知事の審査裁決を経た後でなければ提起することができないものであるところ、本件訴えは、右の手続を経ていないから不適法である。

理由

まず、本件訴えの適否について判断する。

本件訴えは、東京都知事から条例の定めるところにより権限の委任を受けている被告が地方税法の規定にもとずいてなした固定資産税賦課処分の取消しを求めるものであるが(東京都固定資産評価審査委員会の審査決定の取消しを求めるものでないことは原告の釈明するところである)、同法第一九条第一号、第一九条の一二、行政不服審査法第五条の規定によれば、右賦課処分の取消しの訴えは、その処分につき東京都知事に対して審査請求をし、同知事の裁決を経た後でなければ提起することができないことが明らかである。しかるに、本件において原告が右の手続を経由していないことは当事者間に争いがない。

この点に関し、原告は、被告が原告を本件物件の所有者として償却資産課税台帳に登録したことにつき東京都固定資産評価審査委員会に審査の申出をしたところ、右登録及びこれにもとづく本件賦課処分が正当である旨の決定があつたから、本件賦課処分の取消しを求めるについて更に都知事に審査請求をする必要はないと主張する。しかしながら、地方税法の規定によると、償却資産に係る固定資産税の賦課手続としては、まず、当該資産所在の市町村長(都の特別区においては都知事。第七三四条)が所有者の申告(第三八三条)又は職権により真実の所有者を認定して、その氏名、住所及び資産の価格等を償却資産課税台帳に登録したうえ(第三八一条第五項)、右台帳に所有者として登録された者に対して課税するものとされているから(第三四三条第一項、第三項)、課税台帳に所有者として登録されることは、その者が固定資産税を課されることの前提手続であるといえるけれども、この一連の手続のうち、償却資産課税台帳に登録された事項(登録価格のみならず、所有者の点も含む。土地及び家屋課税台帳の場合は所有者の点が除かれるのと異なる。)について不服がある場合においては、固定資産評価審査委員会(第四二三条)に対して審査の申出をすることができ(第四三二条第一項)、同委員会の決定に不服があれば更に当該決定の取消しの訴えを提起することができる(第四三四条第一項)反面、右の手続によつて救済を求めうる事項については、これを固定資産税賦課処分に対する争訟手続において不服の理由とすることが許されず、(第四三二条第三項、第四三四条第二項)、償却資産課税台帳の登録事項の確定手続とそれにもとずく賦課処分とは、不服申立ての手続上截然と区別されているのである。

原告が本件において東京都固定資産評価審査委員会に対してした審査の申出は右法第四三二条の規定によるものであるが、右述のとおり、固定資産評価審査委員会は、課税台帳に登録された事項に関する不服を審査決定する機関であつて(第四二三条第一項)、賦課処分自体の審査権を有するものではないから、たとえ同委員会の決定が賦課処分の適否にまで言及したとしても、法律上課税庁やその審査庁を拘束する効力はなく、また、その決定を賦課処分に対する審査裁決に当るとみる余地もない。したがつて、償却資産課税台帳に所有者として登録されたことの誤りを理由として、右登録にもとづく賦課処分の取消しを求めることができるかどうかはともかくとして、いやしくも当該賦課処分の違法を主張してその取消しの訴えを提起しようとするかぎり、前記委員会の決定とは別に、改めてその賦課処分自体について法定の審査庁(本件では都知事)の審査を経ることは、決して無意味でもなければ、また、これを要求することが不服申立制度上不合理なことでもない。けだし、原告の本訴における主張は、課税台帳の登録の誤りが当然に本件賦課処分を違法ならしめるという見解を前提とするものと解されるから、右賦課処分自体に瑕疵があるかどうかの点につき事前に前記委員会とはまつたく別個独立の機関である都知事の判断を経由させることが審査前置制をとつた法の趣旨に合致するからである。そうだとすれば、原告が本件賦課処分について都知事の審査裁決を経なかつたことは法定の前置手続を履践しなかつたものというほかはなく、そして、仮に原告の都知事に対する審査請求が容れられないことが法解釈上ある程度予測され、あるいは前記委員会が本件賦課処分の正当性を認めたことから、原告において右の前置手続を要しないと信じたとしても、これをもつて行政事件訴訟法第八条第二項第三号にいう「裁決を経ないことにつき正当な事由があるとき」に当ると解することはできない。(仮に本件が原告の主張するとおり都知事の審査裁決を要しない場合であるとしても、弁論の全趣旨によると、原告は本件賦課処分がなされた当時右処分のあつたことを知つたものと推認されるところ、本件出訴の日がその当時から三箇月以上を経過した昭和四二年八月一五日であることは記録上明白であり、右期間内に原告が出訴しなかつたことにつき原告の責に帰すべからざる事由があつたと認めることはできないから、本訴は出訴期間経過後の訴えでもある)。

してみると、本件訴えは不適法というべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 小木曽競 佐藤繁)

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